Tabelog Tech Blog

食べログの開発者による技術ブログです

食べログにおける質の高いアウトプットを持続的に生み出す組織づくり

この記事は 食べログアドベントカレンダー2022 の25日目の記事です🎅🎄

こんにちは、食べログシステム本部長の京和です。今年も🐓を務めます。

食べログがアドベントカレンダーを始めて今年で5年目になります。去年まではQiita上に記事を書いていましたが、今年はねんがんのテックブログをオープンしたので、アドベントカレンダーもテックブログでやることになりました🎉

本記事では、「質の高いアウトプットを持続的に生み出す組織づくり」というテーマで、食べログのこれまでの取り組みをご紹介したいと思います。

テックブログ運営でのよくある悩み

テックブログ運営の目的は大きく分けて2つです。ここは各社さん、ほぼ同様なのではないかと思います。

  1. 企業の技術ブランディング・採用力の強化
  2. アウトプットを通じたエンジニアの学び、成長

この目的の達成に向けて、理想的な形としては以下のようなサイクルが回ることでしょう。

そうは言っても食べログも含め、多くの企業がテックブログ運営に悩みを抱えています。ただ、そうした悩みの話になった際に、「いかに書くか・続けるか」という点に主眼が向けられていることが多いように感じます。もちろんテックブログの運用そのものも難しい課題ではあるのですが、私は本当に重要なのは「社外に発表できるような良い事例をどうやって社内で作っていくか?」ということだと考えています。

なぜなら、会社のブランディングに寄与したり、多くの人に読まれる記事にするためには、記事の質が重要になってくるからです。そして、そもそもの話として、書くネタがなければブログは書けません。また、技術ブランディングという目的から考えたとき、発信先というのはブログに限らず、勉強会・カンファレンスへの登壇など他にも様々な選択肢も含めて考えるべきでしょう。

では、どのようにすればこの良いサイクルを実現できるでしょうか?

理想的なサイクルを実現する事を目指した取り組み

いきなり社外の発表を目指して新しい取り組みを始める、と言うのは難易度も敷居も高いです。そこで、

  • 普段の取り組みの質を上げる仕組みづくりをする
  • 短い周期で小さく発表できる機会を作り、徐々に難易度・規模を広げていけるようにする
  • 良い発表に触れる機会を増やす

と言うような形で、まずは小さくサイクルを回し、段階を踏んで徐々に理想に近づいていくアプローチを設計しました。いきなり大ボスは倒せないので、倒しやすい中ボスを配置したり、道中にクエストを配置してレベル上げできるようにしたりするようなイメージです。実際の流れを見ていきましょう。

1. 普段の取り組みの質を上げる

まずそもそもの「取り組みの質」の定義についてですが、「大きな成果に繋がり、かつ他者にとって有益な知見となるもの」を質が高い取り組みであると、本記事では定義することにします。質の高い取り組みを実現するための、私自身の考え方をモデル化すると以下のような形になります。

Input / Outputという軸と、Internal / External という軸のマトリクスで取り組みのサイクルを整理しています。 質の高い取り組みをするために特に重要になってくるのが、インプットのフェーズです。ここできちんと自分たち現状や課題を理解すること、また社外の優れた事例などを調査するという双方を行き来しながらどのようなアウトプットをするのかを検討していきます。
流行のキーワードだけを見て手法ありきで進めてしまうと、現場の課題感とマッチせず成果につながらない結果になりますし、かと言って社内だけを見ていても現状の延長線上に思考が留まってしまい、外部と相対的に比較すると参考にならない、質が低い取り組みになってしまいます。

全体的な傾向としては、社外だけを見ている場合はオーバーエンジニアリングに、社内だけを見ている場合はアンダーエンジニアリングになりやすいです。ここで言うオーバーエンジニアリングと言うのは、問題領域を円と見立てたとして、解決策の円が問題領域の円より広いにも関わらず重なる範囲は狭かったり、円そのものが大きすぎたりして、ROIが合わないような状態です。逆に、アンダーエンジニアリングは解決策の円が小さすぎたり、または解決できたとしたもの効果が薄いもの、と言えるでしょう。円に深さがあったとして、それが浅いようなイメージです。

インプットのフェーズでは目的と手段を整合させ、オーバーエンジニアリングでもアンダーエンジニアリングでもないちょうどいい塩梅を見つけるために、社内(現実)と社外(理想)の双方に目を向けて考えていく必要があります。

具体例

この考え方は、私に限らず経験豊富なエンジニアに共通する部分があります。その具体的な例として、テックリードの荻野による「食べログの理想的な開発サイクルの絵を描く」という事例をご紹介します。この取り組みは以下のような流れで進んでいきました。

  1. 現状の開発サイクルをヒアリングし、バリューストリーミングマップなどで整理する
  2. ワクワクする最近の開発事例や手法を調べ、持ち寄る
  3. ワクワク事例を課題と食べログの開発サイクルにマッピングする
  4. 「課題」と「開発トレンド」を結びつけて、「ゴールとアプローチ」について議論する
  5. 理想の開発サイクルの絵を描き、それを元にアクションアイテムを作る

ポイントは1〜3で、ここはまさに社内(現実)と社外(理想)を整理して、それを現場に落とし込んでいるところです。この一連の流れは実際にはMiro上で整理と議論を行っています。細かい内容はお見せできないのですが、雰囲気がわかるスクショを貼っておきます。

また、「この取り組みを社外に胸を張って発表できるか?」「成果につながる取り組みか、やること自体が目的化していないか?」と言った問いを投げかけてみるのもよいでしょう。

それ以外にも、各チームがそれぞれフォーカスするべき領域を明らかにしたり、チーム間でうまく協調的な取り組みが進められるようにするために、組織の構造を整理するなどの下地を整えることも重要です。このあたりは 私の2021年のアドベントカレンダー「食べログの大規模なエンジニア組織を段階的に改善していく取り組み」に詳しく記載してありますので、こちらをご覧ください。

次に、これらの活動をどのように発表に繋げていくかを見ていきましょう。

2. 短い周期で発表できる機会を作る

食べログシステム本部の技術部ではOKRを採用しています。OKRは1週間をイテレーションの単位とし、その週の終わりにウィンセッションという、自分たちの成果を発表して褒め合う場があります。1週間で出来たものをまとめ、小さな成果でも良いのでそれを発表し、褒められるようにユーザーや聞く側の視点も意識しながらデモなども積極的に活用して発表します。

OKRを利用している技術部には、小さくてもできたことを伝えて褒め合う文化が根付いていました。「できたことは何か」、「それによって誰がどう嬉しいか」を軸に考えるようになったことで、「自分にできることは何か」、「次の課題を解くためにはこの人に話を聞こう」と思えるようになりました。頭でっかちに理想だけを追うことや独力でやりきることに対する盲目的なこだわりが消え、闇雲にインプットするだけに留まることが減りました。

「社内に閉じこもっていたエンジニアが社外エンジニアコミュニティに参加するためにやったこと」 より引用

OKRでは週の始めにチェックインを行い、そこでOKRの目標から逆算してその週のタスクを設計します。成果を発表するという前提があるため、ある程度の形にまで持っていくことが求められる構造になっており、たとえ小さな成果であっても「褒め合う」という文化があることで、心理的安全性が担保されています。

各チームのウィンセッションの発表では時間や内容には特に制約を設けず、自己申告でやってもらっています。ただし、毎週の発表は原則として行うものとする、申告した時間はきちんとタイムキーピングして守るようにする、など発表の練習として機能させるためのルールは定めています。

部内では発表に際する心理的なプレッシャーも少ないですし、発表形式も自由でハイコンテキストな内容でも問題ないため、まずはこうしたところから「良い取り組みをする」「発表をする」というサイクルを繰り返し、経験値を積んでいけるような場作りをしています。

3. 徐々に難易度・規模を広げていけるようにする、良い発表に触れる機会を増やす

食べログではTabelog Tech MTGという、食べログの全エンジニアが集まる会を隔週で開催しています。会にもよりますが15分程度の発表が2つあることが一番多く、新しくジョインした方の自己紹介や全体の告知事項を伝える場にもなっています。

Tabelog Tech MTGは次のステップアップの場であると同時に、良い発表に触れる機会を増やす場でもあります。自分が発表することが一番経験になりますが、他の良い発表を見ることも大事な経験です。Tabelog Tech MTGは発表者にとっては社外に発表するのにかなり近い作り方をしてもらっていますし、クオリティ的には社外に公開してもまったく恥ずかしくない水準で、かつ社外には出せないような濃いトピックも扱っています。

Tabelog Tech MTGはこれまでに59回開催されています。かなり熱心なエンジニアでも、社外の勉強会に毎月2回以上参加し続けるケースは稀だと思います。Tabelog Tech MTGに参加し続けているだけでも多くの学びが得られ、過去の発表資料は、自分が発表する側になった際には参考にできる大事な資産になります。

また、100人超が参加する場であるため、部での発表に比べるとかなりプレッシャーが大きくなります。そこで、発表しやすい場作りの一環として、「Tech MTGのこころがけ」ということで、 「楽しむ」「褒める」「みんなで作る」「仕事に活かす」 という4か条を、毎回私から話すようにしています。

初期から参加している人はもう数十回以上聞いてることになるので耳にタコだと思いますが、文化として浸透させるためにはうざいと思われるくらい言い続けることが大事だと思っているので、今後も言い続けていく所存です。

Tabelog Tech MTGの発表例はテックブログ一発目の記事「Tabelog Tech Blog 始めます!」で紹介していますのでぜひご覧ください。

4. そして社外へ

Tabelog Tech Blogが始まるより前に、フロントエンドチームの有志が「食べログフロントエンドエンジニアブログ」を立ち上げています。外部発信に積極的なチームが最初に動き始めてくれたことで、テックブログの効果検証や運営ノウハウを貯めることができました。組織全体で始めると関わる人たちも増えますし、小さい規模で始めて検証ができたのも良かったです。 1

また、アドベントカレンダーのようなお祭り的な雰囲気の比較的ゆるめの場で社外発表をすることで、発表の経験値を積んでもらうと同時に、私自身は「実際にテックブログをやっていけそうか?」と言うのを見極める材料にしていました。最終的に良いサイクルを回すことができると自信を持って判断することができたため、テックブログを始めることにしました。

このような、チームから始まり社外に至る重層的な場の設計を図としてまとめると以下のようになります。

成功事例

こうした一連の取り組みの成功事例として、先程も引用した @hagevvashi「社内に閉じこもっていたエンジニアが社外エンジニアコミュニティに参加するためにやったこと」がまず挙げられます。 最初は発表の経験自体もほとんどない状態から、OKRを端緒に徐々に範囲を広げていき、現在は社外のコミュニティ運営に参画するなど飛躍的な成長を見せていて、とても嬉しく思っています。
また、2021年のアドベントカレンダーでは「技術的負債への取り組み素晴らしいで賞」として @sadashi「食べログアプリでの技術的負債との向き合い方」が選ばれました。2 このような形で対外的にも私達の活動が評価されるようになってきています。

社外への登壇も、これまでは有志が散発的に行うものだったのが、2021年からは組織的に行えるようになってきました。私自身も機会を見つけて積極的に登壇するようにしています。

食べログはこれまで外部に情報発信をすることが少なかったこともあり、以前は勉強会で 「食べログさんってエンジニアがいたんですね!」 と言われた事もあったそうなのですが、今後はそうした事もなくなるのではないかと思います。

ただ、まだまだ Tabelog Tech Blog の知名度は低く、アクセス数も満足できる数値には程遠い状態です。テックブログの運用そのものもこれからどんどん改善して、より多くの人に見られるようにしていきます。

おわりに

質の高いアウトプットを持続的に発信する、という大きな目標を達成するための取り組み方についてご紹介しました。ゲームにおけるレベルデザインの考え方と、プロダクト開発の文脈でよく語られる仮説検証のサイクルを小さく高速に回す、と言う考え方を、組織開発に取り入れてみたようなイメージで考えていただければと思います。

私自身の個人的な挑戦として「持続的で再現性のある仕組みをつくる」ということがあります。例えばテックブログをやるぞとなったときに、モチベーションのある一部の人達が頑張って運用すればしばらくは続くかもしれません。ですが、モチベーションは有限で持続的なものではありません。また、最初は良かったとしても、ネタが尽きてきたり、書くこと自体が目的化してしまい、本末転倒な状態になることもあるでしょう。

一方で、これまでにない新しい取り組みというのは、得てして一部の人たちの突発的な情動によって始まるものです。そうして始まった活動を持続的なものにするために、才能や情熱のある人達の行動特性や考え方を抽象化し、仕組みに落とし込むことによって、「チームとして実現できている状態」をデザインする、それが実現できるようになれば、長期的に強い組織が作れると考えています。

このような仕組みをある種のシステムとして捉え、エンジニアリングやプロダクト開発の考え方・アプローチを活かして作っていくというのはとても面白い仕事です。今回の事例に限らず、様々な領域でこのような状態が実現できるよう、今後も頑張っていきたいと思います。

最後に、これまでに私が書いたアドベントカレンダーの記事も載せておきます。よろしければ冬休みの合間にでもぜひご覧ください⛄

それでは、今年も一年ありがとうございました。みなさま良いお年を!